秋好院長ブログ
予約を絞る理由
投稿日:2018年11月17日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
当院は予約制への移行に舵をきっています。
その過程でネットや紙面など各種媒体による周知に加え、入り口にも告知を掲示しています。
また、手術法も改善を加えて、術後の再診回数が少なくなるように変更しています。
その結果として一日の診察人数は他クリニックの半分となり、予約制で一人あたりの時間が確保されます。
なぜ、このようにするのでしょうか?理由は以下の3つです。
#1 一人あたりの診察時間を確保して、医療の質の低下を防ぐ。
#2 手術時間の確保。手術待ち期間の短縮。
#3 診察の待ち時間の短縮、緊急対応できる余裕の確保。
それでは一つ一つ解説を加えていきます。
#1 一人あたりの診察時間を確保して、医療の質の低下を防ぐ。
これはとても単純なことです。一日に8時間診療として、100人の診察なら一人あたりの診察時間は単純計算で5分未満です。実際には休憩時間などもあるので、3分未満でしょう。これに対して、30人診療ならば医師との持ち時間は10分を超えます。医師がエコーをしながら、その場で画面を見せて所見を説明する分を含めればもっと長くなります。また、当院では医師だけでなく、手術の前には看護師から20分以上の説明と案内があります。医療者と接する時間がトータルで30分を超えるので、医療の質と安全は確保されるはずです。
#2 手術時間の確保。手術待ち期間の短縮。
当院が専門とする下肢静脈瘤は手術でしか治りません。お話をする時間を確保するのは大事ですが、話ばかりして手術する時間がないのでは本末転倒です。「すぐに診察してくれるけど、手術は半年待ち」では意味がないのです。そのためには、外来の予約人数を制限して、ゆっくりと手術をする時間を確保するべきです。また、手術が本番なのに、外来の合間や終了後に手術をするのもどうかと思います。当院では朝一番でスタッフ全員が元気なときにやります。大事なことは時間と心に余裕をもって臨む、というのは手術に限らず万事に共通の原則と思います。
#3 診察の待ち時間の短縮、緊急対応できる余裕の確保。
インターネットの口コミサイトを見ると、「話を聞いてくれない」と「待ち時間が長い」がどこのクリニックでも苦情として見受けられます。二時間待って五分の診療なら文句を言う気持ちもよくわかります。一方で、60人の予約でパンパンになっているところに予約外が20人も来たらどうしようもないのが現実です。予約外で来ている人のなかには、本当に具合が悪くて早く診る必要がある人もいるはずです。でもそれは拝見しないとわかりません。こうなってくると予約患者からは苦情も出ますし、具合の悪い人はさらに具合が悪くなり、殺伐としてきます。解決方法は一つしかありません。予約を最初から絞って時間に余裕をもたせるしかないのです。
きちんとした医療を行えば、患者が自然と集まるのは当然のことです。一方で、患者が集まれば集まるほど、患者一人あたりの医療の質は低下するリスクがあります。
医療機関としては、一人あたりの医療の質を落としてでも多くの患者に対応するか、あるいは、ある程度の制限を加えてでも一人あたりの医療の質を担保するべきかの選択を迫られます。
日本の医療は戦後の荒廃期や高度経済成長期に医療が非常に不足していた時代の影響を引きずっています。このため、多少は質が落ちても、とにかく数をこなすというのが「良心的」とされていました。
これはラーメン屋に例えるとよくわかります。200人分のスープしか作っていないところに、1000人も客が来たとします。スープを5倍に薄めて1000人に対応するか、あるいは味を落とさずに200杯だけ売り切ることにするかの選択です。スープを薄める店は、最初は評判が良くても、味が落ちたということでそのうちに潰れるでしょう。逆に薄めない店は食券制を導入して繁盛し続けるでしょう。食べられない800人のうちの何人かからは文句もでるし、中には激しいクレーマーもいるかもしれません。でも冷静に考えれば、その店のラーメンが食べられなければ、他の店で食べてもいいだけの話だし、たまには牛丼だって別にいいと思います。「ラーメンが食べられなくて餓死するかと思った、精神的ダメージを受けた、人権侵害だ、許せない、土下座しろ」というようなクレーマーは他のお客さんから白い目で見られるだけだし、そういう人はすでに他でも出禁になっているでしょう。一方で、どうしてもその店のラーメンを食べたくてきちんと並んでいる人のためには店主も腕によりをかけるでしょうし、おまけでチャーシュー一枚をつけてくれるかもしれません。
ラーメンも医療も需要と供給の原則に従うという意味では共通です。供給が需要に追いつかなければ、供給量に制限をかけるか、供給の質を下げるしかありません。ラーメンと医療で異なるのは医療では供給の質を落とすことは道義上許されないということです。このためには予約制への移行が必要なのです。
難しい話になってしまいました。(T_T)
非常に噛み砕いて話してしまえば、「他所様の家に行って自分の悩みを相談するのに、電話の一本ぐらい入れるの礼儀だし、大した手間でもない。電話一本で相手も準備が出来て、時間が確保されるんであればそっちの方がいい解決法が見つかるよね。」ということです。
足の痛みと静脈瘤 その2
投稿日:2018年10月18日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
さて、静脈瘤以外で足が痛くなる原因として他になにがあるでしょうか?
ここからは科ごとにわけて考えてみましょう。科ごとにわけて考えれば、静脈瘤の治療の前後あるいは並行して行く科がわかりますので便利だと思います。
まずは整形外科です。というのは、高齢化社会を反映して整形外科的疾患を抱えている人が多いからです。
若い人だったら症状を出さないような程度の静脈瘤でも、筋力が低下し、関節に不安を抱えている高齢者だと話は別です。ちょっと足が重くなるだけで、階段を登るのが億劫になる、外出が面倒になって引きこもるということになります。「高齢者の静脈瘤は手術する必要ない」ということを仰るドクターもいますが、それはいかがでしょうか。高齢者だからこそ、軽度な静脈瘤でも行動の妨げになることもあるようです。
では、整形外科的疾患で足の痛み、特に静脈瘤による痛みと混同しやすい痛みはなんでしょうか?
頻度として多いものは膝関節と脊柱管狭窄症です。
高齢による膝の痛みはピンとくると思います。
脊柱管狭窄症とは、背骨の中を通っている脊髄から出る神経がなんらかのきっかけで圧迫されることです。圧迫・刺激を受けた神経の支配領域に痛みや違和感があるように脳が判断します。難しいのは、「痛み」というのは外から見てもわからないことです。その痛みが膝からくるのか、腰からくるのか、静脈瘤からくるのかは本人にはわからないし、ドクターが専門知識、経験を動員してもわからないことがあります。
このような場合は患者と相談して治療を組み立てます。
多くの高齢者にとって大事なことは、明日も来週も元気に歩けることであり、残った時間を有意義に過ごすことです。そのためには完璧な診断・治療よりも妥協してでも手軽に手っ取り早く症状を緩和することが優先になるときもあります。患者ごとにケース・バイ・ケースで判断するしかありません。
次回は皮膚科の疾患です。
足の痛みと静脈瘤 その1
投稿日:2018年10月11日 カテゴリー:下肢静脈瘤について
静脈瘤があると足が痛くなることがあります。
多くの場合で以下のようなタイプ・表現の痛みです。
#1足がだるい。足が重い。
#2ずっと立っていると足がじんじんしてくる。
#3夜中や早朝に足がつる。
このような痛みは静脈瘤による足の痛みとしては典型的なものであり、手術をすると高確率で改善します。
#1、#2の痛みについては静脈瘤による足の痛みとして理屈があっており、手術をすると良くなることが多いです。現役世代で他に病気がない方はかなりスッキリとするようです。ただし、近年は高齢化社会を反映して、他に病気を持っていたり、病気とまでは言えなくても年齢による筋力の低下や関節の痛みなどがあってすっきりと良くならないケースも残念ながらあります。
#3の足のつりは静脈瘤特有の症状です。手術をすると夜中に起きなくなるため大変に感謝されます。
さて、問題なのは静脈瘤以外で足に痛みをきたす病気が他にあるか、ということです。
結論から言うと、あります。しかも、結構な確率で重なっていることがあります。
このような場合には症状を聞いて、見分けていく必要があります。その上で順序付けをして治していくことになります。
暑さと静脈瘤
投稿日:2018年9月20日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
今年の夏は暑かったですね。と思っていたら急に涼しくなりました。
さて、今回は暑さと静脈瘤の関係です。
夏になると静脈瘤の患者さんが静脈瘤クリニックに殺到します。
皮膚炎や足のだるさなどもやや増悪する印象です。もしかしたら温度上昇による血管拡張なども関係あるのかもしれません。ただし、これについては科学的解明が済んでいないので断言はできません。
一番わかり易い理由は、半ズボンやスカートになると他人に指摘されることが増えるためです。自分ではいくら気にしていなくても、他人様に言われると嫌なものです。
それでは、静脈瘤の手術に一番良い季節はいつでしょうか?これは断言できますが、秋冬です。
当たり前ですが、手術の後にはガーゼや包帯を巻きます。静脈瘤手術の場合には弾性包帯や弾性ストッキング(着圧ストッキング)を使用します。暑いときにはこれが蒸れるんです。それで痒くなることが多いです。ところが涼しくなるとこれがほぼゼロになる。
昨年度はストッキングや包帯の蒸れが高率にありました。そのため、当院の超優秀(本当に!)な看護師二人が研究と改善を重ねて、ほとんど蒸れない方法を確立しました。ただし、それでも今年の夏の暑さは特別で2−3割程度は蒸れがありました。やはり自然には勝てませんと実感しました。
夏の外来でも、休みの事情や潰瘍や皮膚炎など重症で早急にやる必要がある場合を除いて、なるべくは秋冬に手術を受けるように勧めています。1−2月の手術なんか最高です。全く蒸れないし、ストッキングや包帯が温かくてありがたいと言う人すらもいらっしゃいます。
せっかく受診したのになんでそんなにわざわざ待たせるんだと苦情を言われることもあります。お気持ちもよくわかりますが、17年間にわたり、何千人〜何万人も診てきた経験で良かれと思って申し上げていることです。(逆に重症の患者さんで無自覚の方には、蒸れるけどすぐにやったほうがいいとはっきりと申し上げています。)
というわけで、涼しくなって他人様に言われなくなったり、楽になったからとほっておかずにきちんと受診しましょう。重症化してから慌てて手術をするよりも、手術をされる方もする方もはるかに楽です。
大伏在静脈と小伏在静脈
投稿日:2018年7月27日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
静脈瘤の原因となる静脈には大伏在静脈と小伏在静脈があります。
外来で患者さんに説明する際によく聞かれますので、今回はメモ代わりにこれについてまとめます。
(他にも不全穿通枝がありますが、これはかなり難しい話になるので、ひとまずはおいておきます。)
大伏在静脈は足首の内側から走行して下肢の内側をずっと登っていって、足の付け根で大腿静脈という太い静脈に流れ込みます。
これに対して、小伏在静脈は足首の外側からふくらはぎの後ろ側に回り込んで、膝の裏側で膝窩静脈という太い静脈に流れ込みます。
大伏在静脈は下肢全長の長さなので「大」、小伏在静脈はふくらはぎの長さだけなので「小」となっているわけです。
手術の観点からいうと、大伏在静脈は仰向けでの手術になります。これに対して、小伏在静脈はうつ伏せでの手術になります。また、大伏在静脈の方が長いので手術時間は長くなりがちです。小伏在静脈の手術だとストレートな形状のものだと5分程度で終了します。(もちろん程度によります。)
一方で、小伏在静脈から生じた静脈瘤の方が足がだるい、重い、つるという症状が強く出る印象です。理由はわかっていません。
このため、小伏在静脈から生じた静脈瘤で症状が強い場合には手術したほうがいいと勧めています。5分程度の手術で症状がよくなるなら、メリットがデメリットを大きく上回るので、手術を止める理由がないです。
もう一つ言うと、静脈瘤全体のうち大伏在静脈からの静脈瘤が8割から9割を占めます。小伏在静脈は2割程度の印象です。このため、専門医以外のドクターは小伏在静脈からも静脈瘤を生じることを「知らない」ことがあります。また、「小」という言葉の印象に騙されて、小伏在静脈からの静脈瘤は大したことないから手術する必要がないとすら思っているドクターも残念ながらいます。
原因不明の足のだるさが治らない、マッサージをしても足が軽くならないといったようなケースでは試しに調べてみてもいいかもしれませんね。