腹部大動脈瘤とは
腹部大動脈瘤とはお腹のなかの最も太い血管(腹部大動脈)がこぶ状に膨らむことです。膨らむだけなら無害なのですが、どんどんと膨らんでいくうちに血圧に負けて破裂してしまいます。そうするとお腹のなかで大出血しますので、放置すれば100%死亡してしまいます。なんとか生きて病院までたどり着いて手術をしたとしても、それまでの時点でかなりのダメージを体は受けていますので50%超の患者さんは死亡します。破裂をするとかなりの確率で死亡しますので、破裂をする前に大動脈瘤を見つけて手術を受けることが肝心です。破裂をする前に予防的に手術を受けた場合の死亡率はせいぜい1-2%ですので、破裂後の手術よりかなり安全です。
腹部大動脈瘤の治療法
当院では、入院施設がないため腹部大動脈瘤の手術は行っておりませんが、院長のこれまでの経験を生かし、適切な施設の紹介や他院で行った手術後の外来フォローアップをおこなっております。
腹部大動脈瘤治療ではステントグラフト内挿術と開腹Y型人工血管置換術の二つからお選びいただき適切な施設のご紹介をいたします。いずれの治療も保険診療となります。それぞれの患者様の動脈瘤の形状や患者背景に応じて、こちらから適切な治療の提案をしています。以下にそれぞれの治療の特徴について述べます。
ステントグラフト内挿術
ステントグラフトとは形状記憶合金で出来た枠組み(ステント)に人工血管(グラフト)を貼り付けたものです。これを折りたたんで収納してカテーテル状にしてあります。このカテーテルを足の付け根の大腿動脈より挿入し、大動脈瘤内で広げて組み立てます。その結果として大動脈瘤内に人工血管で出来た血液の通り道が出来ます。大動脈瘤は残っているのですが、大動脈瘤の弱くなった血管壁には血圧が直接にはかからなくなりますので、破裂を予防することが可能になります。これがステントグラフト内挿術の原理・概要です。
ステントグラフト内挿術の最大のメリットはおなかを開けなくて済むことです。このため、体への負担が最小限で済みます。手術翌日にはすたすたと歩くことも、食事をとることも可能です。手術後3日目には退院して、自宅で普通に生活することが可能になります。また、全身麻酔を必要としないので、肺気腫など胸の病気で全身麻酔がかけられない患者さんや体力のない高齢者でも治療可能です。
一方でステントグラフト内挿術の長期成績は不明です。日本でのステントグラフト内挿術は2009年頃に広まり始めました。このため、日本人の動脈瘤内のステントグラフトが20年後にどうなっているかについては残念ながらよくわかっていません。2016年の時点ではフォローアップとメンテナンスをきちんとすれば問題を起こさないということはわかっています。
開腹Y型人工血管置換術
この方法ではお腹を開いて大動脈瘤を人工血管に入れ替えます。大動脈瘤が残っているステントグラフト内挿術と異なり、大動脈瘤が完全に無くなってしまいますので治療効果は確実なものです。確実な治療効果を希望する患者さんには開腹Y型人工血管置換術を薦めます。
この治療法のデメリットはとにかく体力が必要なことです。全身麻酔は必須な上、肺炎や腸閉塞などのリスクもあります。このため、軽い肺炎ぐらいには耐えられる体力がある方が対象になります。その代わりに、安定した長期成績が歴史的に保証されているので、いったん退院して体力が回復してしまえば大動脈瘤の不安に煩わされることは一切ありません。
以上のようにそれぞれの治療には一長一短があります。いずれの治療も医療保険でカバーされますので、ご安心ください。医療保険制度の観点からは、長期成績に優れる開腹Y型人工血管置換術を優先するように規定されています。