秋好院長ブログ
冬休みのお知らせ
投稿日:2018年12月19日 カテゴリー:お知らせ
当院は12/23から1/6までおやすみをいただきます。1/7より診療を再開します。
下肢静脈瘤クリニックの繁忙期は下肢静脈瘤の症状が悪化する春から初秋です。そのため、冬季はまとめて休みを取得し、英気を養います。
ご不便をおかけすることもありますが、よろしくお願いいたします。
エコノミークラス症候群と血栓性静脈炎
投稿日:2018年12月5日 カテゴリー:お知らせ, よくある質問, 下肢静脈瘤について
下肢静脈瘤と足の痛みシリーズが中断したままです。
次は内科関係で下書きを書いているのですが、簡潔に書くのが難しいので難航しているわけです。内科は医療の根幹をなしているいるため、範囲が膨大で絞り込むのが難しい。
そのなかでこれだけはというのが今回のエコノミークラス症候群と血栓性静脈炎です。
下肢静脈瘤に関する質問のなかで最も多いのは、「血栓」です。とにかく血栓に関する質問が多い。
結論から言うと「静脈瘤の中に血栓ができることはありますが、それとエコノミークラス症候群はほとんど関係ない」ということです。
静脈瘤の中に血栓が出来ることを血栓性静脈炎と言います。血栓性静脈炎の症状としては発赤、激しい痛みが主です。本当に痛いです。
この血栓が肺に飛ぶことを恐れる人が多いわけですが、肺に飛ぶことはほとんどありません。なぜならば下肢静脈瘤は曲がりくねっているので、どこかで引っかかってしまうからです。どこかで引っかかって詰まってしまうと血栓を乗せて運ぶ血液の流れそのものが無くなってしまうので動かない、飛ばないということになります。逆に詰まっているので圧が高くなって痛みが強くなるのです。
ではエコノミークラス症候群ではなぜ飛ぶのでしょうか?エコノミークラス症候群で血栓が出来る静脈はそもそも下肢静脈瘤とは異なり、はるかに太くて血流量も多い静脈(大腿静脈、腸骨静脈など)です。したがって、出来る血栓のサイズも違えば、血栓を乗せる血流のパワーもレベルが違うわけです。
交通事故に例えればバスやダンプカーによる交通事故と自転車による交通事故を同列に論じるようなものです。どちらも道路交通法違反には違いないと思いますが、明らかにサイズが桁違いのものを同列に扱うのは暴論です。
エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)で痛みが出ることもありますが、むしろ少ないと思います。エコノミークラス症候群の過半数は全くの無症状であり、ケロッとしています。一方で、突然死となることもあります。中間の症状が少なくて、無症状と突然死と結果が極端なのがエコノミークラス症候群の特徴であり、恐怖感の原因となっています。この恐怖感のために血栓性静脈炎とエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)の混同が起きてしまっているようです。
血管外科専門クリニックの当院としてはなるべくこの誤解は解きたいと思ってます。したがって、そのような質問があると上のような説明をするのですが、なかなかわかってくれないのが現状です。恐怖感に囚われている人に論理的な説明の理解や理性的な判断を求めるのは酷かもしれません。できれば落ち着いている時にこの記事を読んで安心してもらえるとよいと思います。
厳密にいうと下肢静脈瘤と肺塞栓症には相関関係があることが報告されています。ただし、アジア人における肺塞栓症の発生率は欧米人と比べて10分の1以下ともともとがとても低い上に、下肢静脈瘤と肺塞栓症との間の因果関係は解明されていません。したがって、日本においては肺塞栓症の予防のために下肢静脈瘤手術を勧めるのは良心的とはいえません。相関関係と因果関係の違いを説明すると非常に長くなるので割愛しますが、「東大生にはチョコレートを食べる人が多いから、チョコレートを食べると東大に受かる」と言っているようなものです。冷静な人だったら、それが嘘だということは直感的にわかりますよね?
冷静に考えればわかることも、恐怖に囚われている時には論理的な判断ができません。そのような判断を代わりにしてあげることも、我々の仕事です。
ネット上に玉石混交の情報やフェイクニュースが溢れるからこそ、専門医はきちんとした啓蒙を行う必要があると思います。
なかなか理解が広がらないのがもどかしいのですが、きちんとした理解をせめて地元では広めていきたいと考えています。
予約を絞る理由
投稿日:2018年11月17日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
当院は予約制への移行に舵をきっています。
その過程でネットや紙面など各種媒体による周知に加え、入り口にも告知を掲示しています。
また、手術法も改善を加えて、術後の再診回数が少なくなるように変更しています。
その結果として一日の診察人数は他クリニックの半分となり、予約制で一人あたりの時間が確保されます。
なぜ、このようにするのでしょうか?理由は以下の3つです。
#1 一人あたりの診察時間を確保して、医療の質の低下を防ぐ。
#2 手術時間の確保。手術待ち期間の短縮。
#3 診察の待ち時間の短縮、緊急対応できる余裕の確保。
それでは一つ一つ解説を加えていきます。
#1 一人あたりの診察時間を確保して、医療の質の低下を防ぐ。
これはとても単純なことです。一日に8時間診療として、100人の診察なら一人あたりの診察時間は単純計算で5分未満です。実際には休憩時間などもあるので、3分未満でしょう。これに対して、30人診療ならば医師との持ち時間は10分を超えます。医師がエコーをしながら、その場で画面を見せて所見を説明する分を含めればもっと長くなります。また、当院では医師だけでなく、手術の前には看護師から20分以上の説明と案内があります。医療者と接する時間がトータルで30分を超えるので、医療の質と安全は確保されるはずです。
#2 手術時間の確保。手術待ち期間の短縮。
当院が専門とする下肢静脈瘤は手術でしか治りません。お話をする時間を確保するのは大事ですが、話ばかりして手術する時間がないのでは本末転倒です。「すぐに診察してくれるけど、手術は半年待ち」では意味がないのです。そのためには、外来の予約人数を制限して、ゆっくりと手術をする時間を確保するべきです。また、手術が本番なのに、外来の合間や終了後に手術をするのもどうかと思います。当院では朝一番でスタッフ全員が元気なときにやります。大事なことは時間と心に余裕をもって臨む、というのは手術に限らず万事に共通の原則と思います。
#3 診察の待ち時間の短縮、緊急対応できる余裕の確保。
インターネットの口コミサイトを見ると、「話を聞いてくれない」と「待ち時間が長い」がどこのクリニックでも苦情として見受けられます。二時間待って五分の診療なら文句を言う気持ちもよくわかります。一方で、60人の予約でパンパンになっているところに予約外が20人も来たらどうしようもないのが現実です。予約外で来ている人のなかには、本当に具合が悪くて早く診る必要がある人もいるはずです。でもそれは拝見しないとわかりません。こうなってくると予約患者からは苦情も出ますし、具合の悪い人はさらに具合が悪くなり、殺伐としてきます。解決方法は一つしかありません。予約を最初から絞って時間に余裕をもたせるしかないのです。
きちんとした医療を行えば、患者が自然と集まるのは当然のことです。一方で、患者が集まれば集まるほど、患者一人あたりの医療の質は低下するリスクがあります。
医療機関としては、一人あたりの医療の質を落としてでも多くの患者に対応するか、あるいは、ある程度の制限を加えてでも一人あたりの医療の質を担保するべきかの選択を迫られます。
日本の医療は戦後の荒廃期や高度経済成長期に医療が非常に不足していた時代の影響を引きずっています。このため、多少は質が落ちても、とにかく数をこなすというのが「良心的」とされていました。
これはラーメン屋に例えるとよくわかります。200人分のスープしか作っていないところに、1000人も客が来たとします。スープを5倍に薄めて1000人に対応するか、あるいは味を落とさずに200杯だけ売り切ることにするかの選択です。スープを薄める店は、最初は評判が良くても、味が落ちたということでそのうちに潰れるでしょう。逆に薄めない店は食券制を導入して繁盛し続けるでしょう。食べられない800人のうちの何人かからは文句もでるし、中には激しいクレーマーもいるかもしれません。でも冷静に考えれば、その店のラーメンが食べられなければ、他の店で食べてもいいだけの話だし、たまには牛丼だって別にいいと思います。「ラーメンが食べられなくて餓死するかと思った、精神的ダメージを受けた、人権侵害だ、許せない、土下座しろ」というようなクレーマーは他のお客さんから白い目で見られるだけだし、そういう人はすでに他でも出禁になっているでしょう。一方で、どうしてもその店のラーメンを食べたくてきちんと並んでいる人のためには店主も腕によりをかけるでしょうし、おまけでチャーシュー一枚をつけてくれるかもしれません。
ラーメンも医療も需要と供給の原則に従うという意味では共通です。供給が需要に追いつかなければ、供給量に制限をかけるか、供給の質を下げるしかありません。ラーメンと医療で異なるのは医療では供給の質を落とすことは道義上許されないということです。このためには予約制への移行が必要なのです。
難しい話になってしまいました。(T_T)
非常に噛み砕いて話してしまえば、「他所様の家に行って自分の悩みを相談するのに、電話の一本ぐらい入れるの礼儀だし、大した手間でもない。電話一本で相手も準備が出来て、時間が確保されるんであればそっちの方がいい解決法が見つかるよね。」ということです。
足の痛みと静脈瘤 その3
投稿日:2018年11月1日 カテゴリー:お知らせ
さて、次は皮膚科です。皮膚科に相談するべきかは患者自身でもある程度わかります。
整形外科=筋肉・骨・神経の痛み。内側の痛みやしびれ。運動や姿勢変化によって影響。
皮膚科=皮膚の痛み=表面の痛み。運動自体とは関係ないが、汗によって影響。
もちろん例外はありますが、ざっと分類するとこんな感じです。
平塚市では下肢静脈瘤そのものを皮膚科が治療することは原則的にありません。
日本の医療は自由標榜制であり、医師免許さえあればどの病気でも診ることは法的に問題ありません。医師不足がもっと深刻で交通事情が劣悪だった時代に、「医師が足りないところでは専門外の治療をするのもやむをえない、専門医ではなくても患者よりはずっと知識があるし、中途半端であってもゼロよりましだろう」ということで許容されていたと想像されます。「あの先生はなんでも診てくれるから偉い」と、患者側にもその意識が強く残っているのはその名残と思います。
わかりやすく言ってしまえば、山の中の一軒しかない食堂ではとんかつ、ラーメン、もりそば、オムライスとなんでもできる方がありがたいけど、都会でたくさんのお店があるところでは、とんかつはとんかつ屋、ラーメンはラーメン屋で食べたほうが美味しいにきまってます。おじいちゃんがもりそば、孫がオムライスを一緒に食べられるファミレスにも存在価値がありますが、味は専門店には遠く及ばないのが現実です。
幸なことに平塚市はそのようなフェーズをすでに脱しています。総合診療医と専門医、専門医同士、病院と診療所というように連携が進んでいます。
下肢静脈瘤による皮膚炎であっても、手術は血管外科、皮膚炎は皮膚科とそれぞれの専門に応じて完全に分業がされています。また、軽症な皮膚炎はクリニックで外来治療、重症な皮膚炎は病院で入院治療と皮膚科内でも良好な連携がとれています。これは平塚市ではクリニック・総合病院ともに極めて優秀な皮膚科医集団に恵まれているという特殊事情のおかげで、良好な協力関係が成立しているためです。
さて、静脈瘤でなんで医療連携のめんどくさい話なのよ、ということですが、これは静脈瘤による皮膚炎・潰瘍のためです。重症の静脈瘤による皮膚炎や潰瘍のために皮膚科をずっと受診していることはよくあります。また、リベド血管炎などの珍しい病気の判別をつけるために血管外科から皮膚科に相談することもあります。潰瘍自体は別の皮膚科的要因なんだけれども、静脈瘤の存在のために治りが悪いような場合は皮膚科から血管外科に相談があります。
静脈瘤治療においては皮膚科と血管外科は相互に補完しあう関係であり、2つの科を並行して受診し続けることはよくあることです。そのため、よりよい治療のためには良好な連携が必要なのです。
足の痛みと静脈瘤 その2
投稿日:2018年10月18日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
さて、静脈瘤以外で足が痛くなる原因として他になにがあるでしょうか?
ここからは科ごとにわけて考えてみましょう。科ごとにわけて考えれば、静脈瘤の治療の前後あるいは並行して行く科がわかりますので便利だと思います。
まずは整形外科です。というのは、高齢化社会を反映して整形外科的疾患を抱えている人が多いからです。
若い人だったら症状を出さないような程度の静脈瘤でも、筋力が低下し、関節に不安を抱えている高齢者だと話は別です。ちょっと足が重くなるだけで、階段を登るのが億劫になる、外出が面倒になって引きこもるということになります。「高齢者の静脈瘤は手術する必要ない」ということを仰るドクターもいますが、それはいかがでしょうか。高齢者だからこそ、軽度な静脈瘤でも行動の妨げになることもあるようです。
では、整形外科的疾患で足の痛み、特に静脈瘤による痛みと混同しやすい痛みはなんでしょうか?
頻度として多いものは膝関節と脊柱管狭窄症です。
高齢による膝の痛みはピンとくると思います。
脊柱管狭窄症とは、背骨の中を通っている脊髄から出る神経がなんらかのきっかけで圧迫されることです。圧迫・刺激を受けた神経の支配領域に痛みや違和感があるように脳が判断します。難しいのは、「痛み」というのは外から見てもわからないことです。その痛みが膝からくるのか、腰からくるのか、静脈瘤からくるのかは本人にはわからないし、ドクターが専門知識、経験を動員してもわからないことがあります。
このような場合は患者と相談して治療を組み立てます。
多くの高齢者にとって大事なことは、明日も来週も元気に歩けることであり、残った時間を有意義に過ごすことです。そのためには完璧な診断・治療よりも妥協してでも手軽に手っ取り早く症状を緩和することが優先になるときもあります。患者ごとにケース・バイ・ケースで判断するしかありません。
次回は皮膚科の疾患です。