秋好院長ブログ
下肢静脈瘤とかゆみ
投稿日:2019年4月5日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
ようやく暖かくなってきました。暖かくなるに伴い、かゆみの患者さんが続々と受診するようになっています。
下肢静脈瘤の最大の問題は皮膚炎です。皮膚炎をさらに放置すると潰瘍になっていきます。
皮膚炎の初期症状はかゆみです。
下肢静脈瘤になると逆流のために静脈圧が上昇します。静脈壁は薄いので、静脈圧が上昇すると血液が血管外に滲み出します。
赤血球は血管外では壊れてしまいます。壊れていた赤血球に含まれていた鉄分(ヘモグロビン)はヘモジデリンという物質となって皮膚に沈着します。このヘモジデリンを異物として貪食するために白血球が寄ってきます。白血球によって炎症が引き起こされるので痒くなるのです。これは皮膚炎といいます。
ちなみに静脈瘤によって皮膚が黒ずみます。色素沈着といいます。これは上述のヘモジデリンの色です。よく見ると鉄さびの色に似ているのがわかります。だって鉄分ですから。これは鉄さびがなかなか落ちないのと同じで一度つくとなかなか落ちません。手術しても簡単に落ちないし、手術しなければどんどん色がついていって最後には前述の皮膚炎になります。だから、かゆみや色素沈着が始まっている場合には早めの手術がいいと言えます。ステロイド軟膏を塗ると一時的にかゆみは治まりますが、根本的解決ではないし、潜在的には進行するので、当院ではおすすめしてません。
一説には暖かくなると下肢静脈瘤の遠因である動静脈瘻が拡張するので静脈圧が上昇すると言われています。このためにかゆみや皮膚炎が増悪するのかもしれません。当院では春から秋にかけては初診枠や手術枠を増やして、そのようなニーズに対応できるようにしています。
手術枠拡張と移行について
投稿日:2019年3月9日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
お陰様で手術枠拡張と移行が無事に完了しました。
皆様の協力で混乱もなくスムーズに移行を行うことができました。ご協力ありがとうございました。
現在、手術枠拡張の第二段階を準備中です。
おそらく、4月中には拡張枠の予約を開始できるのではないかと思います。
よろしくおねがいします。
3月からの手術枠拡張について
投稿日:2019年2月21日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について, 血管外科について
3月1日から手術枠を増やします。これによって手術待ち期間は大幅に短縮されることが見込まれます。
手術枠の準備のためには数ヶ月を費やしました。手術法の改良、術後外来の最適化によって患者側に不利益がないようにした上で、スタッフの負担が極端に増えないようにしました。
また、従来は重症患者であっても手術待ちが生じていたのですが、増やした枠を重症患者のための優先枠として運用することで重症患者の場合には優先的に手術を受けられるようにしました。具体的に重症患者とは静脈性潰瘍の既往や活動性潰瘍がある患者(CEAP分類でC5以上)となります。不公平が生じないように重症の判断については医師が客観的に医学的判断を行います。「外来の順番が先だったから」「仕事の都合があるから」「とにかく早くやってほしい」というだけでは優先枠は使用しませんのでご了承ください。
ただし、現時点(2/21)で4月以降に手術を予定されている患者さんについては経過措置として空いている3月の優先枠を使用して前倒しするようにしたいと思います。伝達ミスによる混乱や医療ミスを予防するために電話での手術予約変更は行っていません。(書面ベースでの変更になります。)予約の上で外来を受診していただき、手術承諾書を再発行し、当日の予定をスタッフと確認してください。(従来とは時間が変更になります。)この経過措置については3月いっぱいまでを予定していますが、混乱が生じるような場合や優先枠が一杯になった場合には予告なく終了することがあることをご了承ください。
3月に手術を予定している患者さんも前倒し可能です。ただ、優先枠の空き具合によっては数日間から一週間の前倒しでしかないかもしれません。
手術枠をもっと増やすことや土曜日の手術枠の設定も検討しています。本当は重症なのに仕事が忙しくて平日は休めない人も手術を受けられるようにしてあげたいと思います。ただし、安全を最重視して段階的に行う予定です。
将来の患者さんのために、今いる患者さんと協力して移行期を乗り越えたいと思います。ご協力をお願いします。
下肢静脈瘤と高齢化社会
投稿日:2019年1月28日 カテゴリー:下肢静脈瘤について, 日記
下肢静脈瘤と高齢化社会について考えることが多くなりました。
私が下肢静脈瘤の治療に関わるようになった18年前には今ほどは高齢者の下肢静脈瘤手術は多くなかった印象です。
また、同じ平塚市でも平塚市民病院で勤務していた二年前にはこんなに多くはなかったです。
勝手に考察を加えてみました。
1.手術が楽になった。
まず、第一の原因はこれです。従来のストリッピングはどうしても30分程度はかかりました。慣れていない外科医がやると1時間はかかってしまうし、傷跡も大きい上に出血量も嵩み、合併症のリスクも高かったです。また、たいていの場合には入院でした。手術を決断するにあたって、リスク(危険)とベネフィット(利益)を必ず比較するのですが、リスクが高い分だけ手術は控えられていました。これに対して、現在のレーザー治療はリスクは極小といえます。傷跡も殆ど無いし、体の負担もほとんどありません。手術時・手術後の痛みもあまりありません。そのため、ハードルが極端に下がったといえます。
2.長生きする分だけ静脈瘤が重症化するようになった。
下肢静脈瘤は自然に良くなることはほとんどありません。率直に言って、弾性ストッキング(着圧ストッキング)を履いても大して良くなりません。下肢静脈瘤は手術によってしか治らないと言って過言ではありません。じゃあ、昔はなぜ手術しなかったのでしょうか?それは単純な問題で、重症化する前に寿命を迎えることが前提だったからです。昔の平均寿命は60-70代でした。1960年の平均寿命は男性65.32歳、女性70.19歳です。昔は手術のリスクも高かったし、身も蓋もない言い方をしてしまえば多少悪くなっても寿命が解決してくれるというのが、コンセンサスだったと言えます。ところが、今はみんなが普通に80代まで生きます。(2014年の平均寿命は男性80.50歳、女性86.50歳)しかも、日帰り手術なんて簡単に出来るぐらいに元気です。長生きが前提となった現在の日本社会では重症化してから慌てて手術するよりも、体力に余裕があって簡単に治せる早期の段階で手術をする方が合理的とさえいえます。
3.手術するのに入院が必要なくなった。インターネットで情報を得ることができるようになった。
1.と2.はおそらくは多くの静脈瘤専門医(=血管外科医)が実感していることだと思います。しかし、これでは当院が経験した平塚市での二年間の変化は説明できません。平塚市でたったの二年間で超急速な高齢化が進んだという事実もありません。単純に日帰り手術が可能になったということとネットの発達のためだと思います。患者さんと話していて痛感するのは入院を極端に嫌がる人がかなりいるということです。「病院イコール入院」という思い込みがあると、病院に行くこと自体を嫌がります。クリニックで診療していると、びっくりするような重症皮膚炎の下肢静脈瘤を持つ患者さんに出会います。よくよく聞いてみると、かなりの確率で「入院になるのが嫌だったから病院を受診しなかった」という答えが返ってきます。また、以前は病院にもクリニックにも行かないために医療情報を得ることができなかったと思うのですが、そのような人たちもインターネットで医療情報にアクセス出来るようになりました。
高齢化社会と下肢静脈瘤について考察を加えてみました。自分にとって衝撃的だったのは3.で述べた「入院するかもしれないぐらいなら病院に行かない」という人たちの存在でした。なぜならば病院側で問題になっていたのは夜間のコンビニ受診や救急車の不適切使用による医療資源の浪費であり、病院で経験してきたこととは全く逆の事象だったからです。そういう意味では静脈瘤専門クリニックを開設することによって、そのような人たちに手を差し伸べることができたことはとても良かったと思います。
一方で、これは一時的な社会保障費上昇を招きます。だって、今まで治療を受けなかった人(=医療費を使わなかった人)が医療費を使うようになるから。
しかし、同じ手術なら入院での全身麻酔手術より日帰りでの局所麻酔手術の方がはるかに安く済みます。また、入院手術そのものを駆逐することによって地域の病床数を削減し、病床維持の経費を無くすことによって長期的には医療費を確実に減少させることができます。現実に当院が開院することによって、近隣の病院での入院での静脈瘤手術は激減し、延べ入院日数(=入院医療費)はかなり節約できているはずです。欧米においてはもっと大きな手術(開腹手術、腹腔鏡手術、人工関節手術など)も日帰りや一泊入院となっており、将来的にはもっと短期化が進むはずです。現在の日本の社会保障費は逼迫しており、いつかは受診制限なども行われるかもしれません。それに対して、医療者側が出来ることは、医療をより効率化することによって、患者から受診や治療の機会を奪ったりすることなく、医療レベルをむしろアップさせながら、医療費削減を図ることなのかなと考えています。一時的な医療費上昇はその過渡期における必要経費・投資なのかなと勝手に思っています。
こんなことを書いてしまうと病院や保険組合や厚生局などから目の敵にされそうですが、誰もが充実した医療を受けられるという世界的にも稀有なこの体制を次の世代にも引き継ぐことが我々の世代の使命なのかもしれません。国際的には、皆保険制度を持つ先進国であってもその内容には多くの制限があり、日本のようにガイドライン通りの治療が公的保険で受けられるとは限りません。というより、こんなに恵まれているのは日本だけです。自分自身も外国で生活し、日本で外国人相手にも診療していますので、これは間違いありません。この体制を維持するために医療側は医療レベルの充実のための努力を怠ってはいけないし、行政側にはそのための応援や投資をお願いしたいところです。また、自分自身も含めて患者側は自分たちの権利だけでなく、自分たちの子供や孫の世代にこの体制を引き継ぐために何が出来るかということを考えなくてはならないと思います。
エコノミークラス症候群と血栓性静脈炎
投稿日:2018年12月5日 カテゴリー:お知らせ, よくある質問, 下肢静脈瘤について
下肢静脈瘤と足の痛みシリーズが中断したままです。
次は内科関係で下書きを書いているのですが、簡潔に書くのが難しいので難航しているわけです。内科は医療の根幹をなしているいるため、範囲が膨大で絞り込むのが難しい。
そのなかでこれだけはというのが今回のエコノミークラス症候群と血栓性静脈炎です。
下肢静脈瘤に関する質問のなかで最も多いのは、「血栓」です。とにかく血栓に関する質問が多い。
結論から言うと「静脈瘤の中に血栓ができることはありますが、それとエコノミークラス症候群はほとんど関係ない」ということです。
静脈瘤の中に血栓が出来ることを血栓性静脈炎と言います。血栓性静脈炎の症状としては発赤、激しい痛みが主です。本当に痛いです。
この血栓が肺に飛ぶことを恐れる人が多いわけですが、肺に飛ぶことはほとんどありません。なぜならば下肢静脈瘤は曲がりくねっているので、どこかで引っかかってしまうからです。どこかで引っかかって詰まってしまうと血栓を乗せて運ぶ血液の流れそのものが無くなってしまうので動かない、飛ばないということになります。逆に詰まっているので圧が高くなって痛みが強くなるのです。
ではエコノミークラス症候群ではなぜ飛ぶのでしょうか?エコノミークラス症候群で血栓が出来る静脈はそもそも下肢静脈瘤とは異なり、はるかに太くて血流量も多い静脈(大腿静脈、腸骨静脈など)です。したがって、出来る血栓のサイズも違えば、血栓を乗せる血流のパワーもレベルが違うわけです。
交通事故に例えればバスやダンプカーによる交通事故と自転車による交通事故を同列に論じるようなものです。どちらも道路交通法違反には違いないと思いますが、明らかにサイズが桁違いのものを同列に扱うのは暴論です。
エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)で痛みが出ることもありますが、むしろ少ないと思います。エコノミークラス症候群の過半数は全くの無症状であり、ケロッとしています。一方で、突然死となることもあります。中間の症状が少なくて、無症状と突然死と結果が極端なのがエコノミークラス症候群の特徴であり、恐怖感の原因となっています。この恐怖感のために血栓性静脈炎とエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)の混同が起きてしまっているようです。
血管外科専門クリニックの当院としてはなるべくこの誤解は解きたいと思ってます。したがって、そのような質問があると上のような説明をするのですが、なかなかわかってくれないのが現状です。恐怖感に囚われている人に論理的な説明の理解や理性的な判断を求めるのは酷かもしれません。できれば落ち着いている時にこの記事を読んで安心してもらえるとよいと思います。
厳密にいうと下肢静脈瘤と肺塞栓症には相関関係があることが報告されています。ただし、アジア人における肺塞栓症の発生率は欧米人と比べて10分の1以下ともともとがとても低い上に、下肢静脈瘤と肺塞栓症との間の因果関係は解明されていません。したがって、日本においては肺塞栓症の予防のために下肢静脈瘤手術を勧めるのは良心的とはいえません。相関関係と因果関係の違いを説明すると非常に長くなるので割愛しますが、「東大生にはチョコレートを食べる人が多いから、チョコレートを食べると東大に受かる」と言っているようなものです。冷静な人だったら、それが嘘だということは直感的にわかりますよね?
冷静に考えればわかることも、恐怖に囚われている時には論理的な判断ができません。そのような判断を代わりにしてあげることも、我々の仕事です。
ネット上に玉石混交の情報やフェイクニュースが溢れるからこそ、専門医はきちんとした啓蒙を行う必要があると思います。
なかなか理解が広がらないのがもどかしいのですが、きちんとした理解をせめて地元では広めていきたいと考えています。