秋好院長ブログ
静脈瘤による潰瘍
投稿日:2017年9月11日 カテゴリー:下肢静脈瘤について
今回は静脈瘤による潰瘍や皮膚炎の例です。
「静脈瘤は死ぬ病気じゃないから手術しなくていい、弾性ストッキングを履いておけばいい」ということを静脈瘤に詳しくないドクターは言います。じゃあ、本当にしなくていいのでしょうか?
大間違いです。
現在のイギリスのガイドラインでは以下のように推奨されています。
“Do not offer compression hosiery to treat varicose veins unless interventional treatment is unsuitable.”(手術が出来ない場合を除き、弾性ストッキングで治療を試みてはならない。)
https://www.nice.org.uk/guidance/cg168/chapter/1-Recommendations#referral-to-a-vascular-service-2
この場合の”Do not offer”という表現は強い表現であり、多くの患者にとって利益とならないのでやってはいけない、という意味です。
https://www.nice.org.uk/guidance/cg168/chapter/about-this-guideline
つまり、イギリスのガイドラインでは弾性ストッキングをやめて手術ファーストを推奨しています。
日本では入院でのストリッピング術が長く行われていたために、「手術しないで弾性ストッキングをはいておけばよい」という今となっては誤った認識が専門ではないドクターの間に広まったままです。当院が受診時に紹介状不要というのは残念ながらそういう現実があるためです。
以下に静脈瘤を放置した場合にどうなるか、という実例の写真を示します。
この患者様はひどい潰瘍で受診した患者様です。下腿前面の皮膚は広範囲に壊死しており、組織が露出している状態でした。
こうなっても確かに死にはしません。手術をすればかなり良くもなります。ただ、跡はどうしても残ってしまいます。(この写真は手術後にかなり良くなった状態です。)
こうなってしまう前に手術できちんと治すことが大事です。
冷え症 その5
投稿日:2017年8月8日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について, 脊柱管狭窄症, 閉塞性動脈硬化症について
動脈にも静脈にも異常がない場合には血流低下はないといったんは考えて差し支えありません。
では何に問題があると思いますか?
一つの可能性は神経です。
人間の感覚は神経に支配されています。
末端の受容器で刺激を受取り、末梢神経を伝わり、脊髄を登っていき、最後に脳で認識します。
この流れのどこかで神経に圧迫が加わわると、神経はその上流で痛みがあるかのように錯覚を起こします。
例えば、脊柱管狭窄症では腰に異常があるのに、足に痛みが生じます。
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbar_spinal_stenosis.html
脊柱菅狭窄症では神経が原因で足がしびれる、痛い、じんじんするなどの症状が生じます。
血管外科を受診される患者様で脊柱菅狭窄症を持っている方は沢山います。
一方で、脊柱菅狭窄症と診断されている患者様で、血管が原因で症状が生じている方も沢山います。
私がこれまでに勤めてきた病院でも整形外科からのご依頼が最も多かった印象です。
「足が冷える」と訴える患者様の多くが神経と血管の複合的要因で症状が出ていることが多いようです。
高齢者は複数の病気を抱えていることが普通です。一度に全部を完全に治すことはできなくても、ひとつずつ治して、少しでも症状が軽くなって生活の質が落ちないようにすることが大事だと思います。
それでは動脈、静脈、神経にも異常がなくて、それでも症状がある場合はどうなるのでしょうか?
冷え症 その4
投稿日:2017年8月2日 カテゴリー:下肢静脈瘤について, 冷え症について
血流低下が「ない」場合にはなにが考えられるのでしょうか?
一般に血流が悪いというと動脈血流(足に入ってくる血流)の低下を考えます。
では、「足から血流が抜けなくなる場合はどうなるの?」と思いませんか?
足から血流を抜くのは静脈ですので、この場合は静脈系の異常になります。
足の静脈系は大きくわけて2つに分かれます。
筋肉の奥深くを走る深部静脈系と皮膚のすぐ下を走る表在静脈系です。
深部静脈系の異常で代表的なものは深部静脈血栓症、表在静脈系の異常で代表的なものは下肢静脈瘤です。
(実際には動静脈瘻などもっと色々とありますが、それはひとまずはおいておきましょう。)
静脈系の異常では足は冷えません。しかし、「冷え症」で来院される患者さんのかなりの割合で静脈系に異常が見つかります。
静脈系に異常があると、下肢に血液がうっ滞(血液が足に溜まる)して、足が重い・だるい・じんじんするといったことが置きます。こういった症状を「冷える」と考えたり、表現する方が多いようです。
うっ滞がひどくなると皮膚炎を起こして皮膚が黒ずんでもきます。さらには潰瘍(皮膚がえぐれる)まで引き起こすこともあります。
当院でも下肢静脈瘤を何年も放置してうっ滞性潰瘍になってしまった方がいらっしゃっています。
下肢静脈瘤は命に支障はありませんが、皮膚炎や潰瘍になってしまうと生活の質ががくんと落ちます。
また、足がだるく・重くなるので、高齢者の杖歩行の原因となっていることがあります。
下肢静脈瘤の手術は随分と進歩してほぼ間違いなく外来で治せるようになりました。
手術時間も30分程度であり、傷跡も採血や点滴の跡に毛が生えた程度です。高齢者でも問題なく受けることが出来るようになりました。
なかには「下肢静脈瘤は死なない病気だから、治療する必要はない」と昔の知識で仰る方もいますが、それはもはや時代遅れの考え方かもしれません。
高齢者にとっては生死よりも軽い足で明日を快適に過ごすことの方が大事なのです。
7月10日 無料院内勉強会
投稿日:2017年7月3日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について, 勉強会・講習会のお知らせ
先日、平塚市医師会外科部会で下肢静脈瘤について講演を行いました。
その内容を一般の方にもわかるように噛み砕いてお話したいと思います。
題は「下肢静脈瘤の症状と治療法について」です。
参加希望の方は電話で参加申し込みをお願いします。0463746694です。
当院では正しい血管外科の知識を一般の方々に広めるために無料勉強会を行っています。
初診の患者様には無料勉強会のテーマについてアンケートをとっています。
今後もアンケートで要望の多いテーマについて無料勉強会を行いたいと思います。
下肢静脈瘤と閉塞性動脈硬化症を合併した例
投稿日:2017年6月12日 カテゴリー:下肢静脈瘤について, 当院での治療例, 閉塞性動脈硬化症について
この患者様は足が痛い、歩けない、血管が膨らんでいるとのことでいらっしゃいました。病院でも下肢静脈瘤ということで血管外科にまわってきました。
お話を伺うとすぐに普通の静脈瘤ではないということが分かりました。動脈の検査も並行して行い、閉塞性動脈硬化症と下肢静脈瘤の合併とわかりました。
まずは閉塞性動脈硬化症の画像所見です。
黄色の矢印の箇所で外腸骨動脈が高度狭窄しています。また、右浅大腿動脈(赤い矢印を結ぶ区間)が閉塞しています。浅大腿動脈の閉塞区間では側副血行路がよく発達しているので、浅大腿動脈の閉塞は以前からのものと推測されます。
次は下肢静脈瘤の画像所見です。
青い矢印で示すように右大伏在静脈が累々と拡張しています。典型的な下肢静脈瘤です。レーザーによる日帰り手術できれいに治ると考えられます。
この患者様は点滴と抗血小板薬の内服で閉塞性動脈硬化症による症状はすぐに軽快しました。今後は下肢静脈瘤のレーザー焼灼術と外腸骨動脈の狭窄に対するカテーテル手術を行う予定です。
このような治療は動脈・静脈両方の専門家である血管外科医にしか行なえない治療です。かつ、病院との連携がとれている地元密着の専門クリニックにしかできない治療です。今後はこのような病診連携による高度な日帰り治療が主流になっていくのではないかと思います。