秋好院長ブログ
思い出のとんかつ
投稿日:2019年2月18日 カテゴリー:日記
医学部卒業後に慶応義塾大学病院で一年間の勤務を経た後に最初の派遣先が総合太田病院でした。今は改築移転して太田記念病院となっています。
平日は22時前に仕事が終わることなど極稀にしかなく、土日も仕事でした。また、連日のように緊急手術や急変などで緊急コールがありました。一年間を通して休んだのは一週間あるかないかで、当時はブラック企業やパワハラという言葉もなく、それが当たり前でした。また、スマホなどもなく、ネットも整備されていなかったし、緊急時に備えて病院から30分以上かかるところへの外出は禁止されていたので、市内での外食だけが楽しみでした。
もとからとんかつは好きだったのですが、三枚橋のとんかつ屋の親父さんは会心の一撃みたいなとんかつを揚げてくれると「どうだ、うまいだろ」と声を掛けてくれました。また、いつもにこにこしている女将さんはとても優しくて、凹んでいるときには励みになりました。一人で行ってお腹いっぱい食べるのが楽しみでした。
離任してからはなかなか行く機会もなく、親父さんが亡くなられて代替わりしたと風の噂で聞きました。いろいろととんかつを食べたけれど、あれ以上のとんかつはなかった。先日、思い立って太田市まではるばる運転しました。
確かに代替わりして息子さんが揚げていました。親父さんは亡くなられたわけではなく、入院したときにピンチヒッターで息子さんが守っていただけで今もお元気とのこと、親父さんと女将さんは二年前までは現役でやってらしたとのことでした。もっと早く伺えばよかったと悔やまれました。
親父さんのとんかつは僕の思い出のなかで美化された味ですが、息子さんのとんかつはそれに劣らないものでした。息子さんのひとひねりを加えているとのことでしたが、なんの違和感もなく、僕は貪り食いました。
最近はチェーンの飲食店が多くなり、どこに行ってもおなじような味で、同じようなサービスです。それはそれで安心できるのですが、そこに感動はありません。
他人様に感動を与えるのは並大抵のことではなく、良かれとおもったことが裏目に出て怒りを買ったりすることもあります。
利益を生み出すための単純な手段(job)と考えれば感動を生み出すための試行錯誤は非効率的なリスクでしかなくマニュアル化で排除すべきです。しかし、常に向上を要求される専門的な職業(profession)に試行錯誤は欠かせません。また、先人の進歩や発見を踏まえた改善を次代に繋げて初めて天職(vocation)と言えると思います。
とんかつ食っただけでなに語ってんだよ、と突っ込まれそうですが、最後に見送ってくれた息子さんの女将さんそっくりの優しい立ち姿で「小僧の神様」を読んだときのような気分になったので日記として残しました。
下肢静脈瘤と高齢化社会
投稿日:2019年1月28日 カテゴリー:下肢静脈瘤について, 日記
下肢静脈瘤と高齢化社会について考えることが多くなりました。
私が下肢静脈瘤の治療に関わるようになった18年前には今ほどは高齢者の下肢静脈瘤手術は多くなかった印象です。
また、同じ平塚市でも平塚市民病院で勤務していた二年前にはこんなに多くはなかったです。
勝手に考察を加えてみました。
1.手術が楽になった。
まず、第一の原因はこれです。従来のストリッピングはどうしても30分程度はかかりました。慣れていない外科医がやると1時間はかかってしまうし、傷跡も大きい上に出血量も嵩み、合併症のリスクも高かったです。また、たいていの場合には入院でした。手術を決断するにあたって、リスク(危険)とベネフィット(利益)を必ず比較するのですが、リスクが高い分だけ手術は控えられていました。これに対して、現在のレーザー治療はリスクは極小といえます。傷跡も殆ど無いし、体の負担もほとんどありません。手術時・手術後の痛みもあまりありません。そのため、ハードルが極端に下がったといえます。
2.長生きする分だけ静脈瘤が重症化するようになった。
下肢静脈瘤は自然に良くなることはほとんどありません。率直に言って、弾性ストッキング(着圧ストッキング)を履いても大して良くなりません。下肢静脈瘤は手術によってしか治らないと言って過言ではありません。じゃあ、昔はなぜ手術しなかったのでしょうか?それは単純な問題で、重症化する前に寿命を迎えることが前提だったからです。昔の平均寿命は60-70代でした。1960年の平均寿命は男性65.32歳、女性70.19歳です。昔は手術のリスクも高かったし、身も蓋もない言い方をしてしまえば多少悪くなっても寿命が解決してくれるというのが、コンセンサスだったと言えます。ところが、今はみんなが普通に80代まで生きます。(2014年の平均寿命は男性80.50歳、女性86.50歳)しかも、日帰り手術なんて簡単に出来るぐらいに元気です。長生きが前提となった現在の日本社会では重症化してから慌てて手術するよりも、体力に余裕があって簡単に治せる早期の段階で手術をする方が合理的とさえいえます。
3.手術するのに入院が必要なくなった。インターネットで情報を得ることができるようになった。
1.と2.はおそらくは多くの静脈瘤専門医(=血管外科医)が実感していることだと思います。しかし、これでは当院が経験した平塚市での二年間の変化は説明できません。平塚市でたったの二年間で超急速な高齢化が進んだという事実もありません。単純に日帰り手術が可能になったということとネットの発達のためだと思います。患者さんと話していて痛感するのは入院を極端に嫌がる人がかなりいるということです。「病院イコール入院」という思い込みがあると、病院に行くこと自体を嫌がります。クリニックで診療していると、びっくりするような重症皮膚炎の下肢静脈瘤を持つ患者さんに出会います。よくよく聞いてみると、かなりの確率で「入院になるのが嫌だったから病院を受診しなかった」という答えが返ってきます。また、以前は病院にもクリニックにも行かないために医療情報を得ることができなかったと思うのですが、そのような人たちもインターネットで医療情報にアクセス出来るようになりました。
高齢化社会と下肢静脈瘤について考察を加えてみました。自分にとって衝撃的だったのは3.で述べた「入院するかもしれないぐらいなら病院に行かない」という人たちの存在でした。なぜならば病院側で問題になっていたのは夜間のコンビニ受診や救急車の不適切使用による医療資源の浪費であり、病院で経験してきたこととは全く逆の事象だったからです。そういう意味では静脈瘤専門クリニックを開設することによって、そのような人たちに手を差し伸べることができたことはとても良かったと思います。
一方で、これは一時的な社会保障費上昇を招きます。だって、今まで治療を受けなかった人(=医療費を使わなかった人)が医療費を使うようになるから。
しかし、同じ手術なら入院での全身麻酔手術より日帰りでの局所麻酔手術の方がはるかに安く済みます。また、入院手術そのものを駆逐することによって地域の病床数を削減し、病床維持の経費を無くすことによって長期的には医療費を確実に減少させることができます。現実に当院が開院することによって、近隣の病院での入院での静脈瘤手術は激減し、延べ入院日数(=入院医療費)はかなり節約できているはずです。欧米においてはもっと大きな手術(開腹手術、腹腔鏡手術、人工関節手術など)も日帰りや一泊入院となっており、将来的にはもっと短期化が進むはずです。現在の日本の社会保障費は逼迫しており、いつかは受診制限なども行われるかもしれません。それに対して、医療者側が出来ることは、医療をより効率化することによって、患者から受診や治療の機会を奪ったりすることなく、医療レベルをむしろアップさせながら、医療費削減を図ることなのかなと考えています。一時的な医療費上昇はその過渡期における必要経費・投資なのかなと勝手に思っています。
こんなことを書いてしまうと病院や保険組合や厚生局などから目の敵にされそうですが、誰もが充実した医療を受けられるという世界的にも稀有なこの体制を次の世代にも引き継ぐことが我々の世代の使命なのかもしれません。国際的には、皆保険制度を持つ先進国であってもその内容には多くの制限があり、日本のようにガイドライン通りの治療が公的保険で受けられるとは限りません。というより、こんなに恵まれているのは日本だけです。自分自身も外国で生活し、日本で外国人相手にも診療していますので、これは間違いありません。この体制を維持するために医療側は医療レベルの充実のための努力を怠ってはいけないし、行政側にはそのための応援や投資をお願いしたいところです。また、自分自身も含めて患者側は自分たちの権利だけでなく、自分たちの子供や孫の世代にこの体制を引き継ぐために何が出来るかということを考えなくてはならないと思います。
2019年の目標
投稿日:2019年1月17日 カテゴリー:日記
2019年開始後に二週間が経過しました。
今年の目標も「安全」です。2018年も多くの手術を行いましたが、無事故でした。今年も無事故で通したいと思います。
医療で安全は当たり前ですが、何事でも「当たり前」が一番難しいと思います。
難しいことでも簡単なことでも当たり前のようにやるには小さなことの積み重ねが大事です。
また、周りに対しても感謝の気持ちを忘れないようにしないといけないはずです。
コンビニのお辞儀も「当たり前」のことだと思われていますが、海外では決して「当たり前」ではありません。
我慢して努力する人がいなければ何事もまわらないはずです。小さなことに感謝する癖をつけないとと自戒しています。
ようやく涼しくなってきましたね。
投稿日:2018年8月29日 カテゴリー:日記
ようやく涼しくなってきました。
今年の夏は異常でした。普通に通勤すると汗ぐっしょりになるので、毎朝5時に起きて涼しいうちの6時過ぎには出勤していました。一人でサマータイムです。出勤すると最初に冷房を入れました。そうすると8時半頃に出勤するスタッフが暑い思いをしなくて済むので気持ちよく働いてもらえます。
これってハーバードで身につけた発想なんです。アメリカ人は残業しない、長時間働かないと言いますが、実際にはそんなことはありません。彼らは本当によく働きます。朝の5時とか6時から仕事をしているのはざらです。一方で、だらだらとは残業はしません。夕方以降は家族の時間だからです。(夜12時まで働いている人も居ます。)
また、リーダーほどよく働きます。朝早くから来て、部下が働きやすくなるように心を砕きます。それを見せないし、同じことを部下には強要しません。それは70代や80代のとんでもなく偉い教授もそうでした。年功序列でふんぞりかえって無茶難題を振り分けるのではなく、チームのために働いてチーム力を最大化できる人がリーダーに選ばれて、そのような人が長く活躍するようです。
もちろん、アメリカにも嫌な人や上司はいます。それも結構たくさんいます。
深夜3時や早朝にメールが来て、寝ていて返事できないと矢継ぎ早に催促のメールをよこす上司もいました。
まあ、真似しなければいいだけの話です。
働き方改革というのはそういうことなのではないかと勝手に思っています。
残業代などのお金の問題だけではなく、きちんとチームワークができる人がリーダーになること、無茶な仕事をしないことが大事だと勝手に解釈しています。
今年の夏は暑かったけど、そういうことを思い出して、小さな気配りを続けるいいきっかけにはなりました。
まだまだ改善の余地はあるけれど、少しづつそういうことを積み重ねていきたいですね。
「運動不足で寝たきり」を予防するには
投稿日:2018年8月16日 カテゴリー:お知らせ, よくある質問, 日記
当院の短い夏休みが終わりました。
夏は静脈瘤の患者様がたくさんいらっしゃるので、あまり休めないのです。長く休むとその後に殺到してかえって辛くなります。
夏に休まない分を年末年始にしっかりと休むようにしています。その方が効率がいいように思います。
ただ、今年の夏は暑すぎる!出かける気にもならなかったので、冷房の効いた部屋で読書をしたりしてじっとしていました。そういう意味でも短くてよかったように思います。
閑話休題。
今月号のプレジデント誌に寝たきり予防法が掲載されました。著者は院長の慶応義塾大学医学部での同級生でリハビリ科専門で在宅医療でのリハビリ医療に深く関わった速水聰医師です。現在はJAXAで宇宙医療の分野で国際的に活躍しています。
これが非常に理に適っていて、さすがだなと唸らせられるものでした。巷にあふれる健康法はかなり怪しいものが多いのですが、これは間違いなく効果があると思います。
ステルスマーケティングのようで恐縮なのですが、この健康法は足腰に悩む当院の患者様に有益だと判断しました。皆様も暑くて出られない時にはクーラーの効いた涼しい部屋でこの運動を試してみてください。