秋好院長ブログ
下肢静脈瘤再発について
投稿日:2020年9月11日 カテゴリー:お知らせ, 下肢静脈瘤について
下肢静脈瘤の再発について聞かれることが多くなりました。
今回は下肢静脈瘤の術後再発について考えてみたいと思います。
再発の分類、対処法、当院の方針、と説明していくので今回は長くなります。
「再発」の分類
「再発」分類1. 「再発」ではなく、「新規発生」を再発と患者が表現している場合。
まず最初に述べなくてはいけないのは、「再発」ではそもそもなく、「新規発生」を「再発」と表現している方がとても多いことです。なかには全く静脈瘤と関係ない症状を静脈瘤再発と言っている方もいます。肌感覚としては半分以上がこのグループに入ります。
保険医療では予防的な静脈瘤手術は認められていません。既に静脈瘤になっている血管しか手術をすることは許されていません。一本の足には静脈瘤の原因となりうる血管が複数あります。このうちの既に静脈瘤になっている血管の手術のみが保険でカバーされます。
従って、以前に手術をしたのとは別の血管から静脈瘤が出ることも残念ながらあります。
「再発」分類2. 術式の問題で再発する場合。
10年以上前はストリッピング術しか根治的治療はありませんでした。血管を引っこ抜くということに対する患者側の心理的抵抗は強く、その解決策として高位結紮や硬化療法など外来でできる妥協案的手術が数多く施行されました。これらの治療は当時の医療水準では十分に合理的なものとされ、保険でも認められています。ただ、これらの治療は再発率が高いのが難点であり、いまはあまり行われなくなっています。
「再発」分類3. 機械の限界である場合
レーザーや高周波で焼いた血管は徐々に吸収されていきますが、その途中で再開通することがあります。頻度としては1%以下ではありますが、ゼロではありません。手術中はエコーで血管の太さなどを見ながら焼き具合を調節していますが、血管の性質は人それぞれなので、同じ太さの血管を同じように焼いてもその反応には個人差があります。この個人差が術後の吸収にかかる期間の差や再開通としてでることがあります。
「再発」分類4. 医師の技量が問題である場合。
残念ですが、下肢静脈瘤専門医を名乗っている者のなかには、明らかに血管外科医ではないものもいます。下肢静脈瘤は血管外科医が専門家であることは医師同士では常識であるのですが、血管外科医の人数が少ないことにつけこんで、血管外科医のフリをしているものもいます。一般の方にはわかりません。
外科専門医や心臓血管外科専門医の資格を保持していれば、血管外科医であると考えて差し支えありません。一方で、血管外科医が泌尿器科専門医や整形外科専門医や麻酔科専門医の資格をとることは現行の専門医制度ではほぼ不可能です。経歴や資格の欄で外科や心臓血管外科以外の勤務歴がある場合には疑ってかかったほうがよいと思います。
「再発」に対する対策
「再発」 分類1に対する対策
これはそもそもが「再発」ではなく、患者側の「誤解」です。丁寧に説明するしかありません。これは、術式や術者に関係なく起こりうるので、どうしようもありません。そういう体質・運命だと思って、都度でやるしかないと思います。
「再発」 分類2に対する対策
保険で認められている術式とはいえ、時代遅れで再発率が高い術式は誤解を招くだけなのでやらないのが一番です。また、硬化療法だけで解決する静脈瘤というのは多くの場合で静脈鬱滞症状がないものであり、「見た目だけの問題で、実害がないものに保険(=公金)を使うべきではない」という大原則に反すると考えます。従って、当院ではそもそもやりません。
「再発」 分類3に対する対策
これは医療技術の限界です。例外的な強い出力で再治療をすると多くの場合で解決します。それでもだめな場合にはストリッピング術を行うしか方法がありません。
「再発」 分類4に対する対策
この問題については所管学会である静脈学会、厚労省、中医協、保険組合が問題視しており、対策に乗り出しています。血管外科医の数の少なさを考慮すれば、静脈瘤クリニックのチェーン展開は困難なはずです。グループで複数の静脈瘤クリニックを経営しているような場合には、疑ってかかったほうがよいと思います。
当院での対応の原則
再発に対する対応の原則としては、術前にきちんとCTやエコーで調べることです。CTで不全穿通枝を検索し、伏在静脈の変異を入念に検索することがとても大事です。教科書には定型的な解剖しか書いてありませんが、実は解剖にはかなり変異があるのが実情です。再発にはある程度のパターンがあり、穿通枝などを丹念に処置しておくことが大事です。これだけでも再発率がかなり低くなります。また、再発や新規発生のリスクを事前に伝えることが大事だと考えます。
最も大事なことは、手術適応です。静脈鬱滞症状が強く、生活にすでに支障をきたしているような場合には、再発・新規発生のリスクよりも目の前の症状改善の方が重要です。このような場合には手術を強く勧めます。一方で、無症状や症状軽微であるような場合で、再発のリスクを心配される方には手術を勧めません。静脈瘤が存在することや今後の見通しは伝えますが、手術は勧めないので拍子抜けされることもあるかと思います。それはそれでいいと思います。手術は本当に必要になってからやればいいと思います。
血栓と静脈瘤
投稿日:2020年9月4日 カテゴリー:下肢静脈瘤について, 血管外科について
最近、静脈瘤内に血栓ができた人を多く拝見するようになりました。
酷暑とstay homeの影響と思われます。
血栓ができる要因として主に以下の3つが挙げられます。
1.血流の停滞
2.血液の性質の変化
3.血管壁の性質の変化
このうちstay homeによる運動不足は1に影響を与え、酷暑による脱水は2に影響を与えます。
予防法・対処法としては弾性ストッキングや足踏みなどで血流停滞の防止、飲水による脱水予防が効果的です。
適切な弾性ストッキングの購入は弾性ストッキングコンダクターの指導が必要ですが、通販サイトでの購入でも構いません。
サイズが多少違っていたとしても、履かないよりはマシです。
飲水量としてはペットボトル一本を常に持ち歩くようにして、汗をかいたときや喉が乾いた時に適宜飲むようにしましょう。
これも正確には体格や心機能などによって必要量が変わるのですが、飲まないよりはマシです。また、心不全や腎不全などで飲水制限を主治医に指示されている場合は主治医に相談しましょう。
血栓ができた時の症状は硬いしこり、激痛、足の腫れが主です。そのような場合には血管外科を受診して相談しましょう。
すぐに手術する必要がなくても、今後のことを考えると手術した方がいい場合もあります。